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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)271号 決定

福岡相互銀行

理由

一、抗告人の主張

本件競売期日の公告には、宅地の賃貸借が存在するのにこれを掲記しない違法がある。すなわち、本件競売手続が開始された当時、今回競売された宅地上には、(一)家屋番号福岡市柳橋町二八番地の二の建物一棟及び(二)家屋番号同町二八番地の三の建物一棟計二棟の建物が存在し、宅地及び右(一)(二)の建物について競売手続が進められ、貸借関係は存在しなかつた。そして右(二)の建物が第三取得者鶴丸祝子の所有である外は、右(一)の建物及び宅地全部はすべて抗告人の所有であつたところ、昭和三五年二月(二)の建物を今井佐助が競落により所有権を取得し、同年六月井手種実が右(一)の建物を競落により取得したので、右(三)の建物の敷地たる今回競売された宅地の使用に関し、昭和三五年三月敷地所有者たる抗告人と今井佐助間に、敷地の賃料を一カ月金一、五〇〇円とする期間の定めのない賃貸借契約をして今日にいたり、また(一)の建物敷地たる今回競売された宅地の使用に関しては、いまだ抗告人と井手種実間になんら契約をしていないが抗告人所有土地上に抗告人所有の(一)の建物が存在し両者の上に存する抵当権に基いて競売されたところから自動的に地上権の成立を見ることは明らかである。民事訴訟法第六五八条第三号には「賃貸借ある場合に於てはその期限並びに借賃の前払又は敷金の差入あるときはその額」を競売期日の公告に掲記することを規定しているが、本件法定地上権は民法三八八条に則り、当事者の請求により裁判所が地代を定むべき筋合であるから、右の地上権(賃貸借)は、競売期日の公告に掲記すべきものと信ずる。

従つて、以上の賃貸借を公告しないでなされた本件競売手続は違法であるから原競落許可決定を取り消すとの裁判を求める。

二、当裁判所の判断

記録によれば、相手方銀行は昭和三三年九月五日抵当権の実行として抗告人所有の福岡市大字住吉字山渡一、五四六番地の八宅地五〇坪六合外四筆の宅地及び同宅地に存する抗告人所有(一)の所論の建物並びに鶴丸祝子所有の所論(二)の建物に対し競売を申し立て、即日競売開始決定がなされて翌六日競売申立の記入登記がなされて差押の効力を生じたこと、(一)及び(二)の建物は所論のように井手種実、今井佐助がそれぞれ競落の上井手は昭和三五年九月一二日、今井は同年三月七日競落代金を支払い、(二)の建物は同年三月九日今井佐助のために、(一)の建物は同年九月一二日井手種実のため、各所有権移転の登記がなされたこと、(二)の建物は抗告人所有の福岡市大字住吉字山渡一、五四六番地の六宅地四〇坪の地上にあつて、初め瀬口福市が所有し、同人は抗告人が相手銀行との間に前示(一)の建物及び五筆の宅地につき抵当権を設定する際、同時に物上保証人として(二)の建物につき共同抵当権を設定して各その登記を経、その後(二)の建物は第三取得者鶴丸祝子の所有に帰したことの各事実が認められる。

以上の認定によれば、かりに抗告人が今井佐助との間に所論の賃貸借契約を結んだとしても、その契約に基く賃借権は前示一、五四六番地の六につき競売開始決定による差押の効力を生じた後の、差押債権者及び競落人に対抗できない賃借権であり、かかる対抗力のない賃借権は競売期日の公告に掲記すべきものでないことは言をまたないところである。また(一)の建物の敷地について井手種実が競落代金を支払つて、(一)の建物の所有権を取得すると同時に、抗告人との間に法定地上権が成立することは、所論のとおりであるけれども、賃借権と異なり法定地上権は競売期日の公告に掲記するを要しないので、原裁判所がこれを掲記しなかつたのは相当で、これを違法とする所論は採用のかぎりでない。

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